ボーカルチョップの作り方!フューチャーベース定番テクニック
好きな曲のドロップで、切り刻まれた歌声が旋律を奏でている。真似してみたものの、自分の作ったものはただ細切れになっただけで、あの浮遊感が出ない。そんな経験はないでしょうか。
ボーカルチョップは、手順そのものは単純です。それでも仕上がりに差が出るのは、素材の準備とピッチの扱いに要点があるからです。
そこで本記事では、ボーカルチョップの作り方を、素材の用意から切り分け、ピッチの割り当て、エフェクト処理、権利の確認まで順を追って解説します。
ボーカルチョップとは何か

ボーカルチョップとは、録音した歌声を短く切り刻み、楽器のように並べ直して鳴らす手法を指します。英語の「chop」がそのまま名前になっています。
大きな特徴は、歌詞を聞かせることを目的にしていない点です。「アー」「オー」といった母音の断片が、コードに沿って音程を変えながら並びます。聴き手は言葉としてではなく、音色として受け取ります。
この手法が広まった背景には、人の声が持つ倍音の豊かさがあります。合成された音とは違う揺らぎがあり、分厚いシンセの中に置いても埋もれずに前へ出てきます。
フューチャーベースをはじめとするジャンルで定番になっているのも、そのためです。曲の山場でシンセと声を重ねると、機械的な質感と人間らしい質感が同時に鳴り、独特の高揚感が生まれます。
作業の全体像としては、素材を用意する、切る、鍵盤に並べる、エフェクトをかけるという4段階に整理できます。この順番で進めれば、迷う場面はかなり減るでしょう。
素材の選び方と用意の仕方

仕上がりの大半は、素材の質で決まります。ここを雑に済ませると、後の工程でいくら手を尽くしても追いつきません。
素材の入手方法は、大きく3つあります。
- 自分で歌って録音する
- ロイヤリティフリーのサンプルパックを使う
- 歌い手に依頼して録ってもらう
自分で録る場合の利点は、必要な音を必要なだけ用意できることです。曲のキーに合わせて歌えるため、後からピッチを大きく動かす必要がなくなります。歌唱力に自信がなくても、母音を伸ばすだけなら十分に成立します。
録るときは、「アー」「オー」「ウー」といった母音を、長めに伸ばして一音ずつ収録しましょう。子音が入ると切ったときに扱いにくくなるため、口の形を保ったまま真っすぐ伸ばすのがコツです。
サンプルパックを使う場合は、音程の情報が明記されているものを選ぶと作業が早くなります。ファイル名にキーが書かれていれば、自分の曲に合うかどうかをすぐ判断できます。
いずれの場合も、リバーブやディレイがかかっていない乾いた素材を選んでください。残響が最初から入っていると、切ったときに響きの尻尾が不自然に途切れます。
切り刻む前の下ごしらえ

素材が手に入ったら、すぐ切りたくなるところですが、その前にひと手間かけておきましょう。ここでの丁寧さが、最終的な聞こえ方を左右します。
最初に行いたいのが、不要な部分の削除です。息を吸う音、歌い出し前のリップノイズ、語尾のブレス。切り刻んだあとで一つずつ直すより、この段階でまとめて処理するほうがはるかに楽になります。
次に、音程を安定させる作業です。人の声はわずかに揺れているため、そのままサンプラーで音程を変えると、揺れも一緒に引き伸ばされてしまいます。ピッチ補正をかけて音程を平らにしておくと、和音として重ねたときの濁りが減ります。
音量をそろえることも忘れないでください。素材ごとに音量差があると、鍵盤で弾いたときに粒立ちがばらつきます。軽くコンプレッサーをかけるか、書き出す前にノーマライズをかけておきましょう。
そして、素材のキーを把握しておくことが重要です。もとの音程が何であるかを確認し、ファイル名に書き加えておくと、後でどれだけ動かせばよいかがすぐ分かります。
準備した素材は、専用のフォルダにまとめて保存しておくと再利用が効きます。一度作った素材は、次の曲でも使えます。
切って並べる基本の手順

いよいよ切る工程です。ここは手を動かしながら覚えるのが早い部分でもあります。
まずはグリッドに合わせて切るところから始めましょう。16分音符や8分音符の線に沿って、素材を等間隔に分割します。DAWの分割機能を使えば、数回の操作で細かく刻めます。
切ったあとは、それぞれの断片に短いフェードを付けてください。切り口をそのままにすると、境目で「プツッ」というクリックノイズが鳴ります。数ミリ秒のフェードで十分に解消できます。
並べ直す段階では、すべての位置を均等に埋めないことを意識しましょう。びっしり詰めると、機械的で息苦しい印象になります。あえて休符を作り、音が抜ける瞬間を残すと、リズムに呼吸が生まれます。
同じ断片を繰り返すのも有効な手です。まったく同じ音を2回続けたあと、3回目だけ音程を変える。この単純な仕掛けだけで、耳を引くフレーズになります。
長さの変化も試してみてください。短い音を連ねた区間のあとに、長く伸ばす音を1つ置く。緊張と解放の落差が、聴き手の印象に残ります。
慣れてきたら、グリッドから少しずらして配置する方法もあります。わずかな揺れが、人間らしい質感を生みます。
ピッチを割り当ててメロディにする

ボーカルチョップらしさが最も出るのが、この工程です。切った素材を鍵盤に割り当て、演奏できる状態にします。
多くのDAWには、オーディオを読み込んで鍵盤で鳴らせるサンプラーが付属しています。まずはそこに素材を読み込み、もとの音程がどの鍵盤にあたるかを設定しましょう。ここがずれていると、弾いた音と実際の音程が食い違います。
準備ができたら、コード進行に合わせてメロディを打ち込みます。難しく考えず、鳴っているコードの構成音をなぞるところから始めるのが確実です。それだけで、和音に溶けた自然なフレーズになります。
このとき起こりやすいのが、音程を上げるほど声が幼く、下げるほど不自然に低くなるという現象です。ピッチとともに声の質感まで一緒に動いてしまうために起こります。
対処としては、フォルマント補正の機能を使う方法があります。声の質感を保ったまま音程だけを動かせるため、極端な変化を抑えられます。あるいは、動かす幅を上下1オクターブ以内にとどめるという判断も有効です。
ハーモニーを重ねると、一気に華やかになります。主旋律の3度上や5度上に同じフレーズを置き、音量を控えめにして混ぜてみてください。厚みが出て、ドロップの説得力が変わります。
エフェクトで質感を作り込む

素材を並べただけの状態は、まだ素朴なものです。ここからのエフェクト処理が、聴き慣れたあの質感を作ります。
最も効果が大きいのが、サイドチェインによる音量の連動です。キックが鳴った瞬間だけボーカルチョップの音量を沈ませることで、独特の脈打つ動きが生まれます。フューチャーベースの浮遊感は、この処理に多くを負っています。
リバーブとディレイは、奥行きを作るために欠かせません。短めのリバーブで輪郭をぼかし、テンポに同期したディレイで残像を作る。かけすぎると音像が奥に引っ込むので、量は少しずつ足していきましょう。
コーラスやユニゾン系のエフェクトを使うと、左右への広がりが出ます。1本の声が複数人で歌っているように聞こえ、シンセと並べても負けない厚みになります。
音の整理という意味では、EQで低域を削る処理も入れておきたいところです。ボーカルチョップに低音は必要ないため、ベースやキックと干渉する帯域をあらかじめ落としておきます。
さらに変化を付けたい場合は、フィルターの開閉をオートメーションで書く方法があります。ドロップに入る直前で徐々に高域を開いていくと、期待感が高まります。
ビットクラッシャーで質感を荒らす、一部を逆再生させるといった加工も、部分的に使えば良いアクセントになります。
楽曲の中での置きどころ

技術的に作れるようになると、次に迷うのが「どこで使うか」です。使いどころを外すと、せっかくの音も効果を発揮しません。
最も一般的なのが、ドロップの主旋律として据える使い方です。歌のサビが終わった直後、言葉のない旋律で場面を切り替える。歌詞で伝えたあとに、音そのもので感情を押し出す構成になります。
合いの手として差し込む方法もあります。歌のフレーズとフレーズの隙間に短い断片を置くと、掛け合いのような立体感が出ます。この場合、音量は主役の歌より明確に下げておきましょう。
イントロで曲の世界観を提示する使い方も有効です。冒頭の数小節で流すと、この曲がどういう手触りなのかを一瞬で伝えられます。
気を付けたいのは、歌本体と同じ帯域で正面からぶつけないことです。どちらも人の声である以上、周波数は当然重なります。片方をEQで削る、左右に振り分ける、音量差を明確に付けるといった整理が必要になります。
そして、全編に敷き詰めないことも大切です。ずっと鳴っていると耳が慣れ、印象に残らなくなります。ここぞという場面に集約するほうが、結果的に強く響きます。
権利まわりで確認しておくこと

最後に、公開する前に確かめておきたい点をまとめます。制作としては地味な部分ですが、避けて通れません。
まず押さえておきたいのが、既存の楽曲から抜き出した歌声を、許諾なく使うことはできないという原則です。インターネット上でアカペラ音源が見つかることがありますが、それを素材として使えるかどうかは別の問題になります。
サンプルパックを使う場合は、ライセンスの条項を読んでください。ロイヤリティフリーと書かれていても、商用利用の可否や、再配布の禁止など、条件が定められていることがあります。購入ページや同梱の文書に記載されているのが一般的です。
歌い手に依頼して録ってもらった場合は、事前に取り決めをしておくと後々の行き違いを防げます。配信での公開、クレジットの表記、二次利用の範囲。口頭ではなく、文面で残しておくと安心です。
配信サービスに登録する際は、権利情報の申告が求められる場合があります。自分で用意した素材であることを説明できる状態にしておきましょう。
権利の扱いは事情によって判断が分かれる領域です。不安が残る場合は、配布元や専門の窓口に確認しましょう。
まとめ

ボーカルチョップの作り方について、押さえておきたいポイントを整理します。
- 歌詞ではなく音色として声を扱う手法で、母音の断片を旋律として並べる
- 素材は自分で録るか、ライセンスの明確なサンプルパックから用意する
- 残響のかかっていない乾いた素材を選ぶと、切ったときに破綻しにくい
- 切る前にノイズを消し、音程と音量をそろえる下ごしらえが効いてくる
- グリッドに沿って切り、切り口には短いフェードを付ける
- すべてを埋めず、休符を作ることでリズムに呼吸が生まれる
- サンプラーで鍵盤に割り当て、コードの構成音をなぞってメロディを作る
- サイドチェイン、リバーブ、コーラス、低域カットが定番の処理になる
- 既存曲のアカペラは使えない。サンプルパックはライセンス条項を確認する
まずは「アー」と伸ばした声を10秒だけ録って、16分で刻んでみてください。一度その断片を鍵盤で鳴らしてみると、仕組みが体感として掴めます。
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