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コラム

「計算したら時給100円だった」配信に疲弊したボサノヴァ演奏家が、オンラインライブで見つけた“音楽を届ける場所”

山崎

夜の静かな部屋に、やさしいボサノヴァの音色が流れる——。

クラシックギターを抱え、眠りを誘うような歌声で、多くの人の心をほぐしていくボサノヴァ演奏家・近田ゆうきさん。

国立音楽大学卒。
年間約100本の公演を行いながら、オンラインライブプラットフォーム「corom」でも活動しています。

「音大を出ても、音楽で生きたいわけじゃなかった」

そう語る彼女は、一度音楽から完全に離れ、グラフィックデザイナーとして働いていた時期があります。
体を壊し、人生が止まったような感覚の中で出会ったのが、“ボサノヴァ”という音楽でした。

近田ゆうきさんの物語は、「もう遅いかもしれない」と感じている大人のアーティストや演奏家に、新しい可能性を教えてくれます。

「音大に行きたかった」わけではなかった

近田さんがピアノを始めたのは5歳の頃。
音楽好きだったお母様の強い想いもあり、自然と“音大へ進む道”が敷かれていました。

進学したのは、国立音楽大学の音楽教育科。
ピアノと声楽を学びながら、音楽理論や教育についても学ぶ環境でした。

実は音大に入ってから、ようやく“音楽が好き”と思えるようになった近田さん。
吹奏楽サークルでフルートを演奏し、仲間と夜通し語り合い、初めて「青春」を感じたそうです。

しかし、実は当時の彼女には別の夢がありました。

「本当は、美大に行きたかったんです」

絵を描くことが大好きで、音大の文化祭では自ら個展を開催。
そして卒業後、彼女が選んだのは“音楽の道”ではありませんでした。

「音楽では生きていかない」

そう宣言し、自分で学費を貯めてデザイン専門学校へ。
その後、グラフィックデザイナーとして就職します。

好きな仕事だった。でも、体が壊れた

就職先は、紙媒体全盛期のデザイン業界。
大型カタログなどの大手企業案件を担当し、忙しい日々を送っていました。

「毎日終電で、タクシー帰り。今で言うブラックな働き方でした」

好きな仕事ではあったものの、働きすぎでメニエール病を発症。
会社に通えなくなり、退職することになります。

その時、偶然立ち寄った雑貨店で流れていたのが、ジョアン・ジルベルトのボサノヴァでした。

「“何この音楽?”って、衝撃を受けたんです」

それまで深く触れたことのなかったボサノヴァ。
けれど、心も体も疲れ切っていた当時の近田さんの中に、その音楽は不思議なくらい自然に入り込んできました。

気づけばCDを集め、ブラジル音楽の世界に夢中になっていったのです。

「この音楽を、日本に届けたい」

ボサノヴァに夢中になった近田さんは、ブラジルへ渡航。
現地の音楽や文化に触れる中で、「この音を日本に届けたい」という想いが強くなっていきます。

そして、自主制作でブラジル録音のアルバム制作を決意。

現地ミュージシャンへの交渉。
ポルトガル語の勉強。
レコーディング手配。
資金調達。

日本の先輩ミュージシャンの力も借りながら、制作全体を自ら動かしていきました。

「怖さより、“やりたい”が勝っていました」

会社員時代の貯金を使い、単身ブラジルへ。
完成したアルバムをきっかけに、少しずつライブ活動も広がっていきました。

最初は、リアルライブの投げ銭ライブからのスタート。
そこから徐々にファンが増え、企業イベント出演なども増加。
本格的に“音楽で生きる”道が始まっていきます。

オンラインライブcoromとの出会い

順調だった活動は、コロナ禍で一変します。

リアルライブが消滅。
活動の場を失った近田さんは、YouTube配信やライブ配信アプリへ挑戦しました。

しかし、そこには大きな違和感があったといいます。

長時間配信。
独占契約。
低い還元率。
“音楽”以外が求められる空気。

「計算したら時給100円だったんです」

疲弊しながら続ける中、coromから声がかかります。
最初は警戒していたものの、実際にライブをしてみて驚きました。

「“ちゃんと音楽ライブとして成立してる”って思ったんです」

チケット制。
最初から最後まで聴いてくれるお客さん。
音楽そのものに価値を感じてもらえる環境。

それは、それまでの配信とはまったく違う体験でした。

オンラインライブで、“孤独じゃない”と思えた

現在、近田さんはcorom主催のリアルライブ「Zepp DiverCity (TOKYO)」への出演や、コロムフェスのリーダーを務めるなど、coromアーティストの中でも“レジェンド”的な存在として知られています。
しかし、本人は「順調」という感覚ではないと笑います。

「coromって、ものすごいスピードで変わっていくんです。最初は“こんな風になったんだ!”って楽しんでいたんですけど、最近は必死で食らいついてる感覚ですね」

新しいアーティストが次々と参加し、発信の上手な人も増えていく。
以前のように“少し頑張れば上位に行ける”環境ではなくなり、大変さも感じているといいます。

それでも、近田さんがcoromを続ける理由があります。

「ミュージシャンって、すごく孤独なんです」

昭和的な音楽業界の空気を経験してきた近田さん。
嫉妬や競争、足の引っ張り合い——。
“仲間と一緒に音楽業界を盛り上げる”という感覚は、これまであまり経験してこなかったと語ります。

だからこそ、アーティスト同士が自然に応援し合うcoromの空気が、今はとても愛おしい。

「この環境が、本当に好きなんです」

さらに驚いたのは、“会ったことがない人”が、自分を応援してくれる世界でした。

Xで少し交流した人が、ライブチケットを買ってくれる。
オンラインライブを通じて、自分の音楽を待ってくれている人が全国にいる。

「こんなに応援してくれる人がいるなんて、今でも信じられないんです」

リアルライブ中心だった時代には、想像もしなかった景色。
オンラインライブは、ただの“配信”ではなく、人と人との距離を越えてつながれる場所になっていました。

「眠りを誘う音楽」を届けたい——同じように悩むアーティストへ

“本物のボサノヴァを届けたい”——。
そう始まった近田さんの音楽活動は、今、少し形を変えています。

現在は、ボサノヴァの空気感をまとったオリジナル曲も数多く制作。
その中で大切にしているのは、「ここに存在していることの尊さ」を届けることだといいます。

「真面目に頑張り続けてきた人たちに、“ただここにいるだけでいい”って思える時間を届けたいんです」

その想いは、coromでのライブにも表れています。

近田さんのキャッチコピーは、“眠りを誘うボサノヴァ演奏家”。
実際、ライブ中に寝落ちしてしまうリスナーも多いそうです。

「朝までアイコンが残ってることもあるんですよ(笑)」

でも、それこそがオンラインライブだからできる体験。
安心して眠ってしまえる空間を作れるのも、自分らしい音楽の形だと感じています。

また近田さん自身、メニエール病だけでなく、長年、自律神経や慢性的な体調不良にも悩まされてきました。
活動を休まざるを得ない時期も何度もあったといいます。

「起き上がれない時期もありました。音楽をやりたくてもできなくて、本当に悔しくて」

だからこそ今は、その経験も歌にしているそうです。

「同じ苦しみを経験した人にしか、届かない言葉ってあると思うんです」

オンラインライブには、時間や場所、体力、家庭環境など、さまざまな制約を越えられる可能性があります。

「オンラインだからこそ、自分に無理のない形で続けられる。可能性は本当に無限だと思っています」

もし今、「もう音楽を辞めようかな」と悩んでいる人がいるなら——。

「“できない理由”より、“やりたい気持ち”を大事にして、一回飛び込んでみてほしいです」

近田ゆうきさんは今日も、誰かの心をそっとほどくように、音楽を届け続けています。

coromは、音楽を諦めきれない人が、もう一度歩き出すためのステージになれる場所です。
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インディペンデントアーティスト編集部
インディペンデントアーティスト編集部
「私たちは音楽を諦めない」というビジョンを掲げ、多様なジャンルのインディペンデントアーティストたちを紹介するオウンドメディアを運営しています。新たな才能を発掘し、アーティストの創造性を全面的に支援することで、音楽の新しい形を創り出しています。マイクロライブ空間アプリ「コロム」運営。
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